AI相場の波乱と「影の支配者」ASML—エヌビディア株急落の裏で際立つ半導体製造装置の独占力

20日の米国株式市場は、AI(人工知能)ブームを牽引してきたエヌビディアの株価が乱高下する波乱の展開となった。市場の期待を裏切らない好調な決算を発表し、取引開始直後こそ買いが先行したものの、最終的には約3%安で取引を終えたのである。S&P500種株価指数も2%近く上昇していた分を全て吐き出し、1.6%安で引けた。この流れは暗号資産市場にも波及し、リスクセンチメントの悪化を背景にビットコインは4%以上急落、昨年4月以来となる8万7000ドル割れの水準まで沈んだ。

好決算でも拭えない投資家の疑念

AI需要の堅調さが数字として表れたにもかかわらず、なぜ市場は売り反応を示したのか。その背景には、バリュエーションの割高感に加え、巨額のAI投資に対する「持続可能性」への根強い懸念がある。12月の米利下げに対する懐疑的な見方も相場の重しとなったが、市場参加者の関心はより根本的な収益構造に向けられている。

ペッパーストーン・グループのディリン・ウー氏が指摘するように、巨大テック企業が莫大な借金を背負って行っているAI投資を、将来的にどこまで収益化できるのかという疑問が解消されていないのだ。ウェルズ・ファーゴやミラー・タバクのストラテジストたちも同様に、現在のインフラ投資に見合うだけのリターンが5年後に得られるのか、投資家心理が冷え込んでいると分析する。「市場が織り込んでいるほどの収益性がAIに本当にあるのか」という点が最大の論点となり、結果として利益確定売りを誘発した形だ。

さらに、ボケ・キャピタル・パートナーズのキンバリー・フォレスト氏は、エヌビディアの財務諸表における売掛金の増加に着目する。「製品が飛ぶように売れているなら、なぜ代金の回収が進んでいないのか」という指摘は、実需とキャッシュフローのズレに対する投資家の不安を浮き彫りにしている。

AI革命を支えるオランダの巨人

エヌビディアの株価が一時の調整局面を迎えたとしても、AI革命そのものが止まるわけではない。そして、エヌビディアが「世界で最も価値のある企業」としての地位を築けたのは、ある一社の存在なしには語れない。オランダの半導体製造装置メーカー、ASMLホールディングである。

エヌビディアが設計する最先端のAIチップ、特に「Blackwell」などの次世代GPUを製造するためには、シリコンウェハー上に極めて微細な回路パターンを焼き付ける露光装置が不可欠だ。現在、最先端半導体の製造に必要な「極端紫外線(EUV)露光装置」を製造できるのは、世界で唯一ASMLだけである。モーニングスターのアナリスト、ハビエル・コレオネロ氏が「半導体の構成要素そのもの」と表現するように、ASMLの装置は世界の半導体生産の99%に関与しており、特にEUV市場においては事実上の独占状態にある。

他社の追随を許さない技術的障壁

ASMLの優位性は圧倒的だ。かつて露光装置市場で競合していた日本のニコンやキヤノンは、今や「はるか後方の競争相手」に過ぎない。コレオネロ氏は、ASMLが過去30年間にわたり投じてきた莫大な投資額に比べれば、他社の投資はごくわずかであり、「現時点でASMLに追いつくことは事実上不可能」だと断言する。

同社のEUV技術は、真空中で溶融したスズの滴に強力なレーザーを照射してプラズマを発生させ、そこから放出されるEUV光を超精密な鏡で誘導して回路を転写するという、極めて高度なものだ。現在は「低NA(開口数)」のEUV装置が主流だが、インテルやサムスン電子、TSMCといった半導体メーカーは、すでに次世代の「高NA」EUV装置の導入に向けた実験を研究所レベルで開始している。

強気な見通しと盤石な収益基盤

市場の懸念をよそに、ASMLの業績は力強い。2025年第4四半期の受注額はアナリスト予想の2倍以上に達し、純受注額は132億ユーロ(約2兆円規模)を記録した。その過半を占めるのがEUVシステムであり、2025年通年では48台のシステムを販売し、116億ユーロの収益を上げている。

最先端の「高NA」EUV装置の価格は1台あたり3億2000万〜4億ユーロ(約500億〜630億円)と推定され、2027年から2028年にかけて大量生産体制に入ると見込まれている。バンク・オブ・アメリカのアナリスト、ディディエ・スケママ氏は、ASMLが次世代EUV技術も産業化に成功しており、この先10年の破壊的トレンドを支える存在になると予測する。

株価もこの独占力を好感しており、昨年は36%上昇、今年に入ってからも既に30%以上急騰している。欧州企業として3社目となる評価額5000億ドル(約78兆円)の大台を突破したことも記憶に新しい。エヌビディア株が短期的なセンチメントに揺れる一方で、その心臓部を握るASMLは、2026年の売上高見通しを340億〜390億ユーロと強気に設定しており、AIインフラ構築の根幹としての地位を盤石なものにしている。